大野哲幹 + 廣瀨蘭 Toshiki Ohno + Ran Hirose

溶け合うエリアライン

Soft & Rough “Hi there”

素材:木材、レース、布、ペーパー、その他
Wood, Lace, Cloth, Paper, Others

 パーソナルスペースつまり自分一人の空間、パブリックスペースつまり他者が存在する空間。この二つの関係性は新型コロナウイルスの猛威の中で大きく変化しました。コロナ禍において、個人にとってのパーソナルなスペースの確保が重要視されたことで、パーソナルとパブリックの識別が一般的にも広がったように感じます。ポストコロナのこれからの時代における自分と他者との距離感は、このパーソナルとパブリックのバランスを以って再考する必要があるのではないでしょうか。それが新たなコミュニティの在り方だと考えました。

 コミュニティを構成する上で人同士の距離感とは最も大切な要素となります。距離感とは、他者の認識、他者との出会い、そしてその間の距離、を意味し、他者を認識するアクションやコミュニケーションのギャップをリードできたなら、それは新しいコミュニティの可能性に繋がるはずです。

 パーソナルスペースとは個人にとって心地の良い空間であり、精神的にソフトでラフな状態であると言えます。しかし、コロナ禍での自粛により、本来心地良いはずの柔らかな個人の空間はむしろ孤独なものと感じる人が多くなり、他者の存在する空間は反対にハードなものとなってしまいました。他者と会う時、街へと出向く時、我々は髪をセットし、化粧をし、身だしなみを整えて、「よし、これから人と会うぞ」という覚悟をもっていました。そんなハードな出会いではなく、もっとソフトに、もっとラフに、他者と出会えることを私達は目指しています。

 パーソナル=ソフト+ラフ、パブリック=ハード+デリケート。これらの重なりが柔らかな出会いを実現するでしょう。これらの境界を曖昧にし、パーソナルからパブリックへとグラデーションのように移行することでソフトでラフな状態を維持したまま他者と共存できます。

 本作品は、私達の目指す新たなコミュニティのテーマであるコア部分だけを抽出し、パーソナルとパブリックの移り変わりというイメージを具現化することにより視覚的に体験できることを試みた作品です。

 2m×2mの展示スペースの中に設置した疎密・重なり・霞・透明度の要素から成る柔らかな境界は、展示場というパブリックスペースの中で、来場者一人一人のパーソナルスペースを生み出しながらも、次第に浮かび上がる他者の姿を認識させ、偶発的で柔らかな出会いを演出します。