倉坪 杏奈 Anna Kuratsubo

ノイズ採集

ノイズ採集

Collecting Distraction

素材:画用紙、ボールペン、ジッパー式ポリ袋、マスキングテープ
Paper,Pen, Zipper bag, Masking tape

日々、私の頭の中には沢山の情報が駆け巡っています。それは例えば明日までにやらなければならない仕事について考えている時に、“今日の夜は何を食べようか”、“洗濯物は乾いただろうか”といった些細なあれこれを思い浮かべることもあれば、昔の嫌な思い出やこれから先の人生の意味についての不安などが浮かんでくることもあります。思考は多岐にわたり、それらは突発的に浮かんできては留まり続けるため、しばしば頭の中が情報で一杯になり苦しくなることもあります。

私はそうした脳内の雑念を「ノイズ」と仮定しました。それらを絵として描き起こし、標本にして観察を試みます。それぞれの絵は、頭の中に浮かんできたノイズを1日一枚ずつ描き起こしたものです。絵の中には「悲しみ」「喜び」など簡単な言葉では表現できない様々な感情や思考が入り混じり、圧縮(=ZIP)されています。

生物採集活動においては採集物が外から影響を受けないよう密封保管することが大切です。描き出したノイズもジッパー式ポリ袋に入れることで、他者の思考やいま現在の自分自身の思考に触れさせないようにしています。

私はそもそも人とコミュニケーションをとることがあまり得意ではありません。日常生活での人間関係で精一杯な上に、携帯電話を持つようになってから、SNSなどを通して常に無数の思考や情報に触れることが増えました。そのお陰で今まで知らなかった世界に感動したり、面白い出来事に元気をもらい救われたこともあります。反面、他者と比較し、自分とは何か、何がしたいのか悩む機会も多くなりました。

そんな中、ノイズを描き出す行為は思考の整理と精神の安定にとても役立っています。物理的な境界で保護されたノイズ達は何からも干渉を受けない「私らしさ」の証でもあるのです。

Artist Profile

倉坪 杏奈

倉坪 杏奈 Anna Kuratsubo

1989年岐阜県生まれ。富山大学芸術文化学部卒業。2016年より本格的に創作活動を開始。 1990年~2000年代初期の社会にあった混沌とした薄暗い雰囲気が私の心に強く残っており、作風もその頃流行していたオカルトやホラーの影響を受けている。 ストレスが原因で体調不良になった経験を機に「自分らしい表現とはなにか」を求めて創作をするようになる。 奇妙で不気味だがおもしろい世界を表現できる作家を目指している。

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