南壽 イサム Isamu Nasu

マリアの壁

マリアの壁

素材:木材、モルタル、シングルチャンネルビデオ、ミクストメディア

 本作は現在の分断であり、世界に点在する恥の壁の一つであり”壁”と私たちの在り方です。

 この壁は私たちの前に常に立ちはだかっています。 壁は光を発し、空気を震わせ私たちに無限とも言える情を語りかけます。文化や政治、性別など多岐に渡る分断から人々は感情を肥大化させ発信し、尚且つ相手を組み伏せようとします。必死になって語りかける相手ははただの壁でしかないのにです。その様に思った私も壁に必死に語りかけている時があり、壁の魔性性に恐れを抱いてしまいます。しかし、壁のあちら側には本当に言葉を発し、受け取ってくれる人間がいるのでしょうか。

 壁に映し出された人物は作者の扮する『ピュラニモスとティスペ』という神話を描いたジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの『ティスべ』です。ティスペは壁の向こうにいる愛しき恋人ピュラニモスを求めています。2人の親同士は半目し合っており2人の関係を良しとしませんでした。その為2人は厚い壁の一箇所、小さな隙間を通して密かに囁き合う事しかできませんでした。そんな状況に耐えきれず2人は駆け落ちを計画し互いの家族との別離を決めます。しかし、あまりにも不条理な運命により2人は直接会うことが出来ず亡くなってしまうのでした。この神話は後にシェイクスピアによって『ロミオとジュリエット』として生まれ変わり更にその約400年後名作ミュージカル『ウエストサイド物語』の種となりました。壁によって阻まれた愛の物語は、壁の概念が歴史によって変化しその時代ごとの社会的分断を映し出ます。この物語は本作において歴史的な縦の線をつなぐ一本の背骨となっています。

Artist information

人がモノに反応し、そこから世界に起こす効果を観察し抽出、作品として発表している。彫刻、パフォーマンス、インスタレーション、映像など観察対象に有効なメディアを選択し作品制作を行なっている。