揺らぎの境界
素材:ロープ、水引
境界(border)は、私が昨今取り組んでいるテーマです。
当初、社会のルール、決められた枠組み、人と他人との境目について、身近な境界の在り方を作品のテーマとしていましたが、コロナ禍をはじめ世界的な問題や、さらにはロシアによる武力侵攻は、私の精神と生活の両面に大きく影響を与え、それにより作品のテーマについての考え方が変化していきました。
戦争による領土の奪い合いは、ニュースやインターネットで見聞きするたびに、とかく国境に限らず物事の境目というのは不変ではなく、きっかけ一つで際限なく揺らぎ、頻繁に形を変えてしまうものだと考えるようになりました。境界とは不変ではないと理解していたつもりでしたが、実際に映像や文字からリアルタイムで情報を得ることにより、現実のものとして突きつけられ、漸く私の解釈が現実に追いつくことができました。
この作品で具象的な形として使用するのは、梅結び、あわじ結び(水引)です。これは、境界を表現するモチーフとして使用しています。使用する理由は、やはりコロナ禍の影響が大きく、江戸時代やその以前からあった厄除けの妖怪や、神仏のお札の画像をSNS上で見ることが増えたのが一因です。その厄除けの拡散の早さは、感染症よりも早く感じられ、主にインターネットを媒介にして認知が爆発的に上がっていくことに、私は唖然とさせられました。
世の中が混沌として不安定な時期に、迷信や呪い、ジンクスと言った人知を超えた存在に縋りたくなることは不思議ではないと考えます。しかし、星の数ほどある昔古来の厄除け、まじないの中から、このお札たちだけが今に甦ってきたのは何故なのでしょうか。この先行きの見えない状況を打破するため、人々は過去を無作為に探し続けました。そして、このお札たちが偶然にも発見されたことで、再ブームが起きたのではないでしょうか。しかしこれは単なる偶然ではなく、日本独自の文化現象「ジャパニティ」の一例とも言えるでしょう。
私は、「突発的に現代に蘇るもの」と「そのまま蘇らずに消えていくもの」という定義が見つからない境目、無作為に揺らぎ続けて永遠に定まらない境目、この二つをこれからも注視していきます。
Artist information
インスタレーション(主に野外)を手に活動しています。