長島 勇太 Yuta Nagashima

光と闇の二項対立

光と闇の二項対立

素材:キャンバス、木枠、台、ディスプレイ、額縁、ライトスタンド、LEDライト、コンピューター、テキスト、プログラム

人類が最初に認識した二項対立とは、光と闇の、昼と夜のコントラストではないか、という仮説をこの作品ではベースコンセプトにしています。

人間は動物と違い、言葉による意味の世界を生きています。人間にとってこの世界は膨大な意味の集合体(=カタログ)であり、その意味を理解することが、生存していくためには不可欠になります。また、人が何か物事を理解するためには、その意味を二項対立的に捉えることが必要になってきます。例えば、自己と他者、正義と悪、勝ちと負け、など、二つに分けることで、私たちの心は物事を始めて認識できます。

光と闇から始まったであろう二項対立による人間の意味世界は、今日西洋科学テクノロジーと共に急速に発展し、現在ではコンピュータを成り立たせている二進法という、0と1の中間が存在しないコントラストを生み出しました。そして、その二項対立は、一回限りの生身の現実の体験を超えて、バーチャルワールドというフェイクの拡張による新しい体験を生み出すようになりました。現実世界とバーチャルワールドが重層化した新しい世界、これが今私たちが立っている現在地なのかもしれません。

この作品は、テキストとそのテキストのバイナリーデータ、また、明滅するライトとそれが当てられるキャンバスから成り立っています。テキストをバイナリー変換した0と1の数列をコンピュータープログラムでリアルタイムにスポットライトの出力にアサインし、キャンバスをライトで照らします。数字が1の時にはライトが点灯し、0の時にはライトが消えます。

いうまでもなく、キャンバスとは本来その上に絵の具で描かれる支持体=世界そのものの最低限の物質的(≒現実的)なフレームワークとして機能しています。そこに0と1によって成り立つコンピューターで書かれたテキストのバイナリーデータを使いライトを明滅させることによって、現実のキャンバスの上に、昼と夜のコントラストを出現させます。

今、スマートフォンに表示されるマップに誘導されながら現実世界を歩いている私たち、あるいは(多くの場合)匿名のままバーチャルワールドで(言論)活動するアバターという身体を持たないもう一人の私たち、このリアルとフェイクの世界がすでに一つに溶け合い、新しいリアルへ更新されているように思えないでしょうか。そして、その世界の始まりとは、0と1による、光と闇のコントラストが現実世界に落とされた時なのです。

Artist information

東京を拠点にコンセプチュアルアートとアンビエントミュージックの分野で活動している。主に写真、 映像、コンピュータープログラム、サウンド、テキスト、ドローイング、立体、ライト、インスタレーションなど、多様な手法を用いて制作している。近年では「分けること」をベースコンセプトとして、「フレームワーク」や「パラレル」、「二項対立」といったいくつかの関連したテーマを進めている。そうしたテーマの下、各々の作品が時代やジャンルや表現形式を超えて、文学的な拡がりを持つような展示方法を追求している。また、最近では一度展示したサイトスペシフィックな作品を別の場所で再構築する新しいアーカイブのかたちを構想している。サウンド制作においては、アンビエントミュージックが現在のようなフラット化していく世界状況に適した稀有な音楽ジャンルであると認識した上で、日本的な静けさを持つオーガニックな音を追求している。

Based in Tokyo, Japan, he works in the fields of conceptual art and ambient music. He works primarily with a variety of techniques, including photography, video, computer program, sound, text, drawing, sculpture, light, and installation. In recent years, he has been working on several related themes such as “framework,” “parallel,” and “dichotomy” based on the concept of “dividing”. Under these themes, he pursues a method of exhibition that allows each work to transcend time, genre, and form of expression, and to expand in a literary way. In addition, he has recently been working on a new type of archive, in which site-specific work exhibited once are reconstructed in a different location. In sound production, he is pursuing an organic sound with Japanese serenity, based on the recognition that ambient music is a rare musical genre suited to the current flattening of the world.