山下 弘匡 Hirotada Yamashita

無常Ⅰ

Impermanence I

素材:木製パネル、銅板、アルミ板
Wooden panel, Copper plate, Aluminum plate

「物事は錆び、そして風化する」という意識、「諸行無常」が本作品のコンセプトです。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」という平家物語の冒頭のフレーズは、聞き覚えがあるかもしれません。
広辞苑によると、
「仏教の根本思想で、三法印の一つ。万物は常に変化して少しの間もとどまらないということ。」
と書かれています。

物事は常に変化し、真新しいものも少しずつキズつき、汚れたり錆びたり、壊れたりと風化していきます。
しかし、人は諸行無常に無自覚です。

私自身、久々に故郷に帰省すると家の近くの工場は廃墟になっていたり、農家の納屋のトタンはボロボロになって、所々錆だらけの風景になっている事に驚きました。
物だけではありません。
過去に起きた様々な出来事も社会の移ろいの中、人々の意識から風化していきます。
コロナ禍や戦争など、ショッキングな出来事が記憶に新しく鮮明ですが、コロナ禍以前の生活を取り戻そうと考えると、人々の価値観は全く様変わりしてしまったようです。

本作品は、アルミと銅の2つの金属板を木製パネルに打ち付けています。
塩化第二鉄腐食液を散布し人為的に腐食させ、自然風化を模倣しています。2種類の金属板は風化の速度の違いや、散布のムラから錆には強弱が生まれています。

銀色の僅かに過去の金属の面影がある部分や激しく変色した部分との対比から、物事の移ろいや時間の経過を錯覚します。

本作品は、自然風化の人為的な模倣であると同時に、現在も緩やかに風化し続けています。環境によっては100年も待たず朽ち果ててしまうかもしれません。
長い目で見た作品の姿も含めて本作品のタイトルを「無常Ⅰ」としました。