R.I.D (REO’s IMPLY DESIGN)

砂漠の薔薇

砂漠の薔薇

素材:新聞紙、スタイロフォーム、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤

ヒトは、「情報」に基づいて人生の選択を行うことが多いと考えます。例えば、天気予報のような身近なことから、政治や経済の動向といったマクロな視点まで、多岐にわたる情報が、私たちの行動に与える影響は少なくありません。これらを鑑みると、日々の生活や、長期的にみた人生において、情報は【行動指針を決定する重大な要素】といえるのではないでしょうか。
この、情報を得るツールのひとつとして、私たちの身の回りに古くから「新聞」があります。新聞は、永きに渡って扱われてきましたが、コンピュータやスマートフォンの普及により、インターネットを通じた情報へのアクセスが民主化し、人々の意識の外側へ押し出されつつあるように感じます。

受発信が容易なインターネットは、人々により多くの情報をより速くもたらす反面、真実と嘘を見極め無ければなりません。加えて、情報操作や多数派の意見に流されたドグマは、私たちに影響を与えることもあるでしょう。また近年では、デジタルタトゥーと呼ばれる、個人の不利益になるような情報の残留が社会現象にもなり、エビデンスやソースが不明瞭な状態にあることに不安を覚えます。このように、膨大な数の情報が悪戯に積層され続けていく様相は、ブラックボックスを呈しています。
この異常現象を可視化することを目的に、「砂漠の薔薇」と「新聞紙」に着目しました。

砂漠の薔薇は、水に溶けたミネラルが結晶化したものであり、形成の仕組みや結晶化のパターン、何故薔薇のような形状を成すかは謎に包まれています。他方で、地域では置物や標本で親しまれています。この謎めいたものは、ブラックボックス化した情報と著しく相似していると考え、形状のメタファーとして位置付けました。

素材のメタファーとしては、16世紀ヨーロッパで始まり約3世紀の時を巡り情報を得るツールとして存在し続けた「新聞」です1),2)。私たちは、新聞紙を用いて開発を進め、コンクリートよりも遥かに軽く、発泡スチロールよりも丈夫な全く新しい材料を生み出しました。
私たちは、情報の起源となる新聞紙で、ブラックボックスを象徴する砂漠の薔薇をカタチづくりました。様々な時代の新聞紙が溶けて混ざることで判読不可能となり、刻まれていた情報は眠りにつきます。長い年月を経て、元が新聞紙であった真実は、永遠に発掘されないかもしれません。何が嘘で何が真実か分からないこの世界で、何を行動指針として、何を夢見て何処へ歩めばいいのか、無慈悲な現実を表現しつつも核心に触れたこの作品が、あなたの明日へ向かう希望の光となることを願います。

1) 芝田正夫:18世紀初期におけるイギリス新聞の研究(1)-特許法の廃止と独立新聞・千光士の出現-,関西学院大学社会学部紀要,Vol.64,pp 269-285, 1991.11
2) 江口豊:活版印刷術の展開と新聞成立との関連について,メディア・コミュニケーション研究,Vol.67,pp1-22,2014.11

Artist information

【全てのカタチの起源は、造形行為ではなく発生行為である】 
我々ヒトを含む全生物のカタチは、どのように形成されたのか。それは、EVO-DEVO(進化発生生物学)という分野で説明がつく。この分野の面白いところは、生物がいかに複雑な種の多様性を、同じ遺伝子単位の発生を用いて織り上げているかという点で、地球上に存在する約870万種の生物のカタチが、共通の遺伝子配列のオンオフ機構によってコントロールされていることが分かった。
 
我々はこれを、無機物の形態形成に変換する手法を生み出した。それは、建築,アート,プロダクト,装飾品とそれぞれスケールは大きく異なるが、カタチを形成するプロセスとその根拠に一貫性がある。更に、建築や生物の骨格から着想される構造的合理性、生物学や物理学から引用された有機的形状、数多の形態形成根拠が混ざり合いながら発生したそのカタチは、完成物はもとより発生に至るプロセスまでも含めて、全く新しいデザイン手法である。

今回の作品は、ヒトの行動指針を決定する大事な要素である「情報」というものが、ブラックボックス化している異常現象を可視化することを目的とし、作品のコンセプトと著しく相似している生態や発生過程を持つ「砂漠の薔薇」を形状のメタファーとして位置付けた。